幼い頃は、寄り道がとても好きな子だった。小学校に上がりたての頃は、いつもと少し違った道を通るのがとても楽しかったのを覚えている。寄り道といっても小学生の寄り道というのはたかが知れている。道を一本ずらす、裏門から帰る、少し遠回りして帰るといったようなものだ。それでも、少しばかりの非日常を求めていたのには変わりない。
特に雨の日の寄り道は、無性に心が躍ったのを覚えている。コンクリートから薫る蒸した香りのせいか、それとも夕立と呼ぶにはあまりにも激しく、私の存在を消し去るかのように叩きつける雨に、透明人間に陥ったような錯覚を覚えたからかはわからない。存在感が希薄とまではいわないが、世界に溶け込んだような気になり、それがより非日常感を演出していたのかもしれない。
世間でいう大人という年齢を通りすぎるころには、寄り道をすることは無くなっていた。通学でも、通勤でも時間に追われることが多くなり、心に余白がなくなっていたからかもしれない。そんな状況でも、旅に出た時は別だった。
「旅」というものは心に余白を生み、遊び心を思い出させ、無自覚に寄り道をさせた。
今回の旅の目的地は残波岬だ。少し遠回りをしながら旅をするが、それでもいいというなら、付き合って頂ければ幸いだ。ちょっとした非日常が交錯する景色を見れるはずだ。
旅の始まりは読谷の小さなホテル、ハイビス喜名からだ。
ホテルの前の細い路地は、小さな十字路へと続く。「肉」という看板が見えてきたら、左に曲がりそのまま真っ直ぐに進む。
路地をゆっくりと進みながらでいいので、一度民家の屋上に目をやって欲しい。家の屋上に樽のような物が置かれていることに気づく。沖縄では、このような貯水タンクが家々の屋上に設置されている。昔は断水がよく起こっていたためだ。
国道58号線に出る道を右に曲がり、次の信号を右折する。
何もない道を走るのは少し爽快だ。58号線のようにヤシの木でもあれば南国感がもっと増すのだけれど、これはこれで気持ちがいい。
寄り道の一つ目は、ファーマーズマーケットのあるゆんた市場だ。
ゆんた市場と読谷村地域振興センター
名前からすると、野菜などを売っているだけの場所と思われるかもしれないが、施設の中には、地域の人の声を広く届けるFM読谷をはじめ、観光協会やフードコート、人気のラーメン店などが軒を連ねている。

特に人気なのが、麺屋はちれん Hachirenというお店だ。地域でも愛されており、海外の観光客からも評判のお店になっている。

県外には素晴らしラーメン店が多く、沖縄のラーメンの平均点というのは東京や福岡のそれにはまだまだ及ばないかもしれない。しかし、こちらのお店をはじめ、横浜のラーメン博物館や台湾にも出店している「通堂」など、魅力的なラーメン店も多くなってきている。
この先を抜けると・・・ドラマのような景色
腹ごしらえを終えたなら、先ほどの道に戻りしばらく前に進む。すると交差点に出るので、こちらの交差点を左に曲がる。
すぐに斜めへと進む道があるので、そちらに入る。
この道を右に曲がるのが正規のルートになる。もし、この道をまっすぐ進むと、ちょっとした浜辺へ行ける一本道に出会うことができる。
もしかすると、何かあるかもしれないと思えるような、そんな道だ。
残波ビーチ
元の道へと戻り、そのまま道なりに進む。突き当りを左に曲がる。
しばらく進むと、途中に残波ビーチがある。
それほど大きくはないビーチだが、天気の良い日はここでちょっと休むのもいいかもしれない。小さなカフェの椅子に腰を掛けて、海を眺める。泳がなくても海を見ていると心が安らぐ瞬間というものがある。小さな浜辺だからこそ、よりその瞬間を感じやすくなるだろう。


残波岬
残波ビーチを超えると、残波岬へと行きつく。そして、岬には不釣り合いのバスに出会うことができる。一見、ただのバスに思えるかもしれないが、近づいてみるとその本当の姿がわかる。
50年以上もこちらに軒を構える立派なパーラー、それがバスの正体だ。50年以上続けているパーラーの味を堪能しつつ、東シナ海を望むのもおつかもしれない。